最近、体重が2kg増えた私は会社帰り1駅手前で下車し歩いて帰るようにしている。運動嫌いな自分に発破をかけ遠回りをして帰るという、1日の終わりのミニイベントはいつの間にかちょっとした楽しみになっている。理由は2つある。1つは上り坂を上り切ったところにある洋館の御宅の庭で、可愛い柴犬が寝そべっている。その様子を見ることだ。もう1つは、駅から少し行ったところに美味しそうな果物や野菜が並ぶ八百屋さんがあることだ。若い女性2人で経営するお店で、数カ月前にオープンしたばかりなのだそうだ。私はそのお店で時々買い物をして帰るのを自分へのご褒美としている。スーパーよりも少し高価なアスパラや、甘くて大きなトマトを買って食卓に並べる。食べてみるとその美味しさに毎回驚いてしまう。ある日の帰り道私はお店の前で足を止めた。雨が降り出しそうだったため急いでいたにも関わらず立ち止まらずにはいられなかった。なぜなら店先に並んだ果物の中に一際目を引くものがあったからだ。「梨」だ。私が立ち止まってその梨を見ていると、八百屋さんの店員さんが中から姿を現した。「いらっしゃいませ。その梨、今日入ったあきづきという品種なんですよ」お店の人はそう言うと多くは語らず、再び中へと戻って行った。私は丸々としたその梨を手に取った。この品種は〈秋月〉と漢字表記されることもあり、その名前の通り秋に旬を迎えることや、月のように丸い美しいフォルムから命名された。「大きい……」あきづきは「豊水」と「新高」を掛け合わせたものと、「幸水」を掛け合わせ生まれた交雑品種だ。大きく分けて「赤梨」に分類される品種で、豊水や幸水と並ぶ人気品種だ。シャキシャキとした食感が特徴で、酸味の少ない赤梨の中でも、この品種は特に酸味が抑えられている。繊維質の果肉がぎゅっと凝縮されており、果汁が多く含まれていることも人気のひとつだ。あきづきは千葉県、熊本県、栃木県を中心に、関東や九州地方で多く栽培されている。梨の中でも晩成のあきづきは、九州では8月下旬頃に収穫され、関東・北陸ではその1ヵ月後の9月下旬頃に収穫される。このように地域によって収穫時期が異なるあきづきだが、10月上旬から中旬にかけて食べ頃を迎える。糖度は約13度になり、有名品種の豊水と同程度であるが、酸味を含む爽やかな味わいの豊水とは異なり、あきづきは濃厚な甘みを感じられる品種だ。重量感もあり、重さは500gほどになり梨の中でも大玉品種だ。「これ下さい」私の今日のご褒美は「あきづき」だ。帰路につく足が速くなる。あきづき梨の特徴と魅力まとめあきづき梨(秋月梨)は、2001年に品種登録された比較的新しい赤梨です。親品種は「豊水」と「新高」を交配したものに「幸水」を掛け合わせた三系交雑で、良い特徴を引き継いだ完成度の高い品種とされています。名前は「秋に旬を迎える」「月のような丸い形」から付けられました。果実の特徴大きさ:1玉約450〜500gと大玉。外観:赤梨系で果皮は褐色。丸みを帯びた美しいフォルム。食味:糖度は約13度前後。酸味が非常に少なく、甘みが前面に出る濃厚な味わい。食感:果肉はシャキシャキとして繊維が細かく、果汁量も多い。酸味が少ないため「とにかく甘い梨が好き」という人に人気が高い梨です。旬と収穫時期あきづき梨の収穫期は地域によって少し異なります。九州地方:8月下旬から収穫が始まる。関東・北陸地方:9月下旬に収穫。旬のピーク:10月上旬〜中旬。秋の深まりとともに最も美味しい時期を迎えるため、季節を感じる梨として親しまれています。主な産地千葉県:全国でも有数の梨産地で、あきづきの栽培も盛ん。熊本県:九州で大玉梨の栽培技術が進んでおり、高品質なあきづきを出荷。栃木県:梨全般の名産地であり、にっこり梨と並んであきづきも人気。その他:福島県や茨城県でも栽培が広がっている。保存方法と食べ方保存:冷蔵庫の野菜室で1週間程度が目安。乾燥を防ぐため新聞紙などで包むのがおすすめ。食べ方:生食:そのまま皮を剥いて。果汁が多いためジューシーさを堪能できる。サラダ:水菜やルッコラと合わせて爽やかな一品に。デザート:ヨーグルトやアイスにトッピングすると濃厚な甘みが引き立つ。あきづき梨の魅力酸味が少なく甘みが強いため、幅広い年齢層に食べやすい。大玉で存在感があるため、贈答品にも向いている。秋の旬を楽しむ季節感のある梨として根強い人気。まとめあきづき梨は、幸水・豊水・新高と並ぶ人気の赤梨で、秋を代表する果物です。大玉で濃厚な甘みとジューシーさが魅力であり、酸味が苦手な人にも愛されています。収穫時期が秋の後半に当たるため、梨シーズンを締めくくる存在としても親しまれています。贈答用にも人気が高く、一度は味わっておきたい現代の名品といえるでしょう。第十二話:ラ・フランスについて