友人宅で昔話に花を咲かせ、私は有給を取って帰省したことを心から喜んでいた。「夢のマイホームだね、おめでとう」「そうなの!やっと、よ。娘が小学校に入る頃にって思ってたんだけど、ちょっと遅れちゃった」彼女はそう言って私にはにかむような笑みを向けた。「そっかぁ。小学3年生だもんね」親友の子どもは今年9歳になる女の子で、親友に似て控えめで優しい子だ。「今日は?帰り遅いの?」「うん。今日は社会科見学でいつもより帰りが遅いの。隣町の農園を見学しに行ってるわ」彼女はそう言いながら嬉しそうにスマホの画面を私に向けた。そこには親友とその夫と娘が写る家族写真があった。「いいなぁ。なんかうらやましい」「あんたも家族作りなさいよ。仕事、仕事ってそればっかりじゃない」友人の意外な言葉に私は思わず「うぅ」と唸った。今なによりも仕事が充実していることを私は実感したのだ。「あ、そう言えば中学2年の時に私たちも社会科見学で農園見学したわよね」友人の言葉に私の記憶も彼女の脳裏の記憶と同じものを呼び起こしていた。その時見学したのは梨園だったと記憶している。「今思えば私たちの梨好きもあの頃からだよね」私の言葉に親友も大きく、そして感慨深そうに頷いた。梨は夏の下旬から収穫が始まる梨と言えば、日本で生産されているものの殆どが和梨だが、その中でも10~20種類ほどに品種分類できることを知ったのも、その梨園見学の時だった。そして驚くべきことに、和梨は品種ごとに収穫や出荷の時期が異なる。地域や梨園によっても微妙に事情は異なるのだそうだが、代表例をいくつか挙げるとこんな感じだ。幸水梨は8月から収穫開始まず、私と親友の好きな幸水の収穫は比較的早い7月下旬から始まる。豊水は8月下旬頃から9月下旬に収穫が完了し、新興はスロースターターで、11月上旬から下旬にかけて収穫される。二十世紀は8月下旬から10月上旬まで続く。同じ「梨」という括りであってもこれほどにも収穫時期に差がある和梨。私は親友から振る舞われた梨を見つめた。「どうかした?」親友はこちらを不思議そうに見つめている。「ううん。人間も梨と同じだなって。収穫時期が異なるように、それぞれに合ったスピードで前に進んでいくのかなって」「座布団1枚」友人と私は思わず声を上げ、涙を浮かべながら笑い合ったのだった。