先日、友人から送ってもらった幸水梨を食べきり、急に冷蔵庫の中が寂しくなってしまった気がした私は、仕事帰りに商店街の果物屋さんを覗いた。ご婦人が一人で経営しているその果物屋さんの店先には、通年の定番フルーツが真ん中を陣取る中、お客さんの目に留まりやすい脇の位置にそっと季節のフルーツが並ぶ。「すみません、幸水梨はありますか?」私の問いかけにお店のご婦人は申し訳なさそうに眉を下げて、手を口元に当てた。「あぁ……ごめんなさいね。今週はね豊水しかないの。贈答?」ご婦人の反応に私は思わず恐縮し、慌てて「いえいえ、大丈夫です」と答え、ご婦人が手で示した豊水梨を2つ手に取った。「じゃあ豊水にします。これいただけますか?」豊水梨を自分で買ったのは初めてだ。いつもこの時期になると友人から届く幸水梨に舌鼓を打ち、私の口は完全に幸水の口になる。だから自分で買うのも自然と幸水梨になるのが常だった。その夜、夕食を終えた私はさっき買ってきた豊水梨を剥いて食べることにした。冷蔵庫の奥で数時間冷やした豊水梨を口へと運んだ私は、その美味しさに驚いた。「こんなに美味しいんだ……豊水って」口の中で弾けるようなシャキシャキ感と、後から追ってくる爽やかな甘みに私はひどく感動した。豊水は梨の中でも代表的な品種のひとつで、幸水梨と石井早生という2つの品種を掛け合わせてできた梨だ。黄土色に斑点が付いた表皮が特徴で、幸水梨よりもややサイズが大きい。その名の通り、水分を多く含み果汁感が強く瑞々しさが自慢の梨だ。甘みだけではなく酸味も含まれるため、バランスのとれた味わいが人気の品種でもある。この品種は幸水に次いで国内生産量の多い梨だ。全国的に人気が高く、北から南まで広い地域で栽培されている。中でも生産量1位を誇るのは千葉県で、全国シェアの18%を維持している。美味しい食べ方は、カットして食べる定番のやり方に加え、薄くスライスしてサラダに合わせて好みの野菜と一緒に食べるという楽しみ方がある。これは野菜好きにも梨好きにも人気の食べ方だ。酸味がサラダとしての豊水梨の魅力を引き出してくれるのだ。豊水梨特有のジューシーな食感がサラダとしての意外性を生み、食卓に彩りを添えてくれる。また、豊水梨は栽培地域によって若干の違いはあるものの9月上旬から収穫時期を迎え市場に並ぶ。8月下旬に収穫時期を迎える幸水梨より、少し遅れて私たちの手元に届くことも、シーズン中に出来る限り色んな梨を食べたいという梨好きには嬉しいポイントかもしれない。今夜は豊水梨のジューシーさにお腹も心もすっかり満たされ、ご機嫌で明日を迎えられそうだ。豊水梨の特徴と魅力まとめ豊水梨(ほうすいなし)は幸水と石井早生を掛け合わせて誕生した赤梨系の品種です。果皮は黄土色に小さな斑点があり、見た目にも親しみやすい特徴を持っています。サイズは幸水よりやや大きめで、1玉あたり約300〜350gが一般的です。糖度は約12〜13度前後で酸味も含むため、甘さと爽やかさのバランスが良いと評価されています。旬と収穫時期豊水梨の旬は9月上旬から9月下旬にかけて。幸水梨が8月下旬にピークを迎えるのに対し、豊水梨はその後を引き継ぐように登場します。旬が少し遅いため「秋の梨」として定着しており、夏の終わりから秋の訪れを感じさせる果物です。主な産地豊水梨は全国的に栽培されていますが、特に以下の地域が有名です。千葉県:国内生産量No.1。全国シェア約18%。茨城県・福島県:東日本を中心に広く栽培されている。九州(福岡県・佐賀県):温暖な気候を活かし、秋のフルーツとして定着。全国的に親しまれているため、スーパーでも入手しやすい梨の代表格です。食味と特徴果汁が豊富で「ジューシーさ」が最大の魅力。甘みと酸味のバランスが良いため、すっきりとした後味。シャキシャキした食感がありながらも、熟すとやや柔らかくなる。この特徴から「甘ったるくない梨が好き」という人にとって人気の高い品種です。保存方法豊水梨は水分量が非常に多いため、日持ちはあまりしません。冷蔵庫の野菜室で保存し、1週間以内に食べきるのが理想。食べる前に2〜3時間冷やすと一層美味しさが引き立ちます。美味しい食べ方そのままカットしてデザートに:王道の食べ方。サラダに加える:薄くスライスし、ルッコラや水菜などの野菜と合わせると酸味が引き立ち、爽やかな一品に。スイーツやドリンクに:スムージーやコンポートにしても豊水梨のジューシーさが活かせます。まとめ豊水梨は幸水の次に多く栽培される人気品種で、ジューシーさと甘酸のバランスが魅力です。夏の終わりから秋にかけて旬を迎えるため、季節の変わり目を感じさせる果物でもあります。鮮度が命の果物なので、購入後はできるだけ早めに食べ、さまざまな食べ方で味わうのがおすすめです。第九話:二十世紀梨について