ある日曜日、仕事の会議資料を作るため私は朝から自宅のパソコンと睨めっこ状態が続いていた。仕事柄、クライアントに取材をしたり文章を書いたりすることには慣れているが、会議資料を作るのは入社当時から私の不得手とする分野の仕事だ。大学時代のゼミで発表資料を作るのに苦戦した記憶を思い出しながら、私は社会人になっても自分の不得意分野に改善の兆しがないことを心底嘆いていた。ブラックコーヒーとチョコレートをテーブルの脇に据え置き、積み上げた資料ファイルと格闘すること3時間。ようやく終わりが見え始めた。「はぁ……疲れた……やっとここまで来た。あ、そうだ……」私は通勤鞄の中に入れたシステム手帳を取ろうと、床に置いていた鞄に手を伸ばした。「あ、コレ……」その時私は指先に触れた紙製の硬い「何か」をそっと引き出した。それは会社の先輩から貰った帰省土産だった。「かわいい……花びらみたい」先輩から貰ったのは梨を乾燥させて作った「ドライ梨」だった。梨を輪切りにスライスし、1枚1枚丁寧に乾燥させて作られてあるそうで、見た目は花びらのような形をしている。私の梨好きを知ってか、仲の良い先輩の心遣いに嬉しくなる。1枚取り出し、かじってみる。その瞬間、口の中に梨の優しい香りと、ほんのり甘酸っぱさが広がった。「おいしい……」梨は中学時代、故郷でよく友人といっしょに食べた思い出の味だ。こんな風に1枚のドライ梨から中学時代の思い出が鮮明に蘇るなど思ってもみなかった。二十世紀梨は青梨の代表品種のひとつで、鳥取県の特産としても有名だ。一玉300gほどあるふっくらとした形で、果皮は黄緑色をしている。甘さの中に程よい酸味があり、シャキシャキとした食感に加え、果汁が口に広がった時のジューシーさが癖になる。その人気は日本国内だけにとどまらず、海外にも輸出されるほど流通量の多い品種だ。そんな二十世紀梨最大の特徴は、熟度によって果皮の色が変化することだ。二十世紀梨は本来青梨であることから流通しているものの多くは緑色をしているが、熟した状態で売られているものは果皮が黄色に変化している。それぞれに違った良さがあり、歯ごたえのあるシャキシャキ感を味わいたい人には緑色のものが好まれ、甘さを重視する人には黄色のものが選ばれている。私は先輩からの嬉しいお土産によって心がほっこり元気づけられ、残った仕事を一気に片付けたのだった。二十世紀梨の特徴と魅力まとめ二十世紀梨(にじっせいきなし)は日本を代表する青梨の一つで、明治時代に千葉県松戸市で発見されたとされています。その後、鳥取県を中心に全国に広がり、今では鳥取県の特産として有名です。果皮が淡い黄緑色をしていることから「青梨」に分類され、赤梨とは異なる爽やかな外観と味わいが特徴です。旬と収穫時期二十世紀梨の収穫時期はおおむね8月下旬から10月上旬まで。出始め(8月下旬):緑色の果皮でシャキッとした歯ごたえが強く、爽やかな酸味を感じる。旬の後半(9月中旬〜10月):熟して果皮が黄色に変化し、酸味がやわらぎ甘さが引き立つ。このように果皮の色とともに味わいが変化するのが大きな特徴です。主な産地鳥取県:二十世紀梨の代名詞ともいえる産地。鳥取砂丘周辺の砂地は水はけが良く、梨栽培に適しています。ブランド管理も徹底され、全国的に高い評価を受けています。千葉県:発祥の地であり、現在も栽培が続けられています。長野県・島根県・福岡県 など全国各地でも栽培は見られますが、やはり鳥取県産が最も有名です。果実の特徴大きさ:1玉約300g前後。やや小ぶりで手に取りやすい。果皮:黄緑色で熟すと黄色に変化。食味:糖度は約11度前後で、酸味と甘味が調和。シャキシャキした食感とジューシーさが魅力。「甘すぎないさっぱりした味」が好まれる理由で、老若男女問わず幅広い層に人気です。二十世紀梨の保存方法常温保存:気温が高い時期は避け、風通しの良い冷暗所で数日程度。冷蔵保存:新聞紙やキッチンペーパーに包み、野菜室で1週間程度。食べ頃:黄緑色から黄色に変わるタイミングで味わいが異なるため、好みに応じて選ぶのがおすすめです。まとめ二十世紀梨は、日本の梨文化を代表する青梨の名品です。鳥取県の特産品として全国に広まり、その特徴的な黄緑色の果皮と爽やかな甘酸っぱさは多くの人に愛されてきました。熟度によって味わいが変化するため、食べ比べる楽しみもあります。贈答品や海外輸出品としても人気が高く、日本の果物を代表する存在といえるでしょう。第十話:新高梨について