電話口の向こうから日本語と英語混じりの軽快な言葉が飛ぶ。「あ、ごめんごめん。ダーリンがマグカップ倒しちゃって……」電話の相手は中学時代からの気の置けない友人だ。彼女は大学時代に交換留学で海外生活を経験したことを機に、外国人の男性と結婚し海外で生活をしている。「あ、そうだ次の長期休暇でまた日本に帰るんだけど、あんた会えるわよね?」彼女の屈託のない声が、仕事でミスをして上司に叱られ、ひどく落ち込んでいた私の心にじんわりと染みわたっていく。「うん、大丈夫よ。私もその時期は帰省するから」「お土産たくさん持って帰るから、楽しみにしてて。何か欲しいものとかある?」彼女は気遣いの人なのだ。「ううん、大丈夫。ありがとう。あ、そうだ、そっちでも果物って食べるの?」私は自分の目の前にあるヨーグルトのカップに描かれた果物のイラストを見ながら何気なく訊ねた。「もちろんよ。むしろ私こっちに来てからだもん、フルーツ食べるようになったの。そっちは今だと……梨が旬かしら?」8月の暑い盛り、私の部屋の冷蔵庫には彼女の指摘した通り梨がある。「そうね、食べてるよ。幸水」「いいなぁ!こっちだとさすがに和梨はなかなかねぇ……洋梨はいくらでも手に入るんだけど。やっぱり梨は和梨よねぇ」「そっかぁ。日本だと逆に洋梨が手に入りにくいけどね」彼女が残念そうに嘆いていた通り日本では断然、西洋梨より和梨の流通量の方が多い。そもそも西洋梨は文字通りヨーロッパ原産の果実だ。和梨も西洋梨も栄養価はほぼ同じで、水分が80%から90%を占めているが、西洋梨は和梨に比べ食物繊維が2倍と多く、糖質も若干高い。。また、西洋梨は丸い形の和梨と違い、下に重心のある円錐型をしている。手触りにも違いがあり、和梨は表皮がザラザラとしているのに対し、西洋梨の表皮はツルツルとしている。そしてそれらふたつの梨は見た目以上に、味わいに違う魅力がある。和梨は瑞々しくシャリシャリとした食感があり、夏の水分補給に最適とされるほど水分感が強い。一方、西洋梨は和梨よりも香りが強く芳醇な甘みがあることが特徴だ。さらに、それらふたつの梨は食感がまったく異なる。和梨は歯ごたえのあるシャキシャキ感が魅力のひとつだが、西洋梨は舌に絡むねっとり感が魅力の果物だ。食べ方にも少しばかりの違いがある。和梨はそのまま皮を剥いて生で食べられることが主流だが、西洋梨は追熟すると皮ごと食べることも可能だ。「会えるの楽しみにしてるわね」私は彼女の言葉に救われた気がした。電話を切りふっと一息吐くと心はすっかり軽くなっていた。和梨と洋梨の基本的な違い梨は大きく分けて「和梨」と「洋梨」の2種類があります。日本では圧倒的に和梨が主流で、夏から秋にかけて全国で栽培されます。一方、洋梨はヨーロッパ原産で、日本国内では山形県の「ラ・フランス」や新潟県の「ル・レクチェ」など一部の地域で生産される程度です。流通量も和梨に比べて少なく、やや特別感のある果物といえます。見た目と形の違い和梨は丸くリンゴのような形をしており、果皮はザラザラとした質感があります。果皮の色で赤梨(幸水・豊水など)と青梨(二十世紀など)に分けられます。洋梨は下が膨らんだひょうたん型で、果皮は滑らかです。形だけでも両者は容易に見分けられます。栄養価の違いどちらも水分量が多く低カロリーという共通点がありますが、栄養成分には差があります。文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」によると、和梨(生・可食部100g)はエネルギー43kcal、水分約88%、糖質11.3g、食物繊維0.5gです。一方、洋梨(生・可食部100g)はエネルギー54kcal、水分約84%、糖質14.3g、食物繊維1.1gで、和梨の約2倍の食物繊維を含みます。整腸作用を期待するなら洋梨、みずみずしさを求めるなら和梨と、目的によって選び分けられます。味と食感の違い和梨はみずみずしく、シャリっとした食感と爽やかな甘みが特徴です。噛むたびに果汁が弾け、夏の暑さを和らげる清涼感があります。洋梨は収穫直後は硬いものの、追熟させると果肉が柔らかくなり、ねっとりと舌に絡むような食感に変わります。香りが強く芳醇で、とろける甘さは和梨にはない魅力です。食べ方と保存方法の違い和梨は収穫後すぐに食べられる果物で、皮をむいて冷やして生で食べるのが一般的です。保存は冷蔵庫の野菜室が適しており、新聞紙やキッチンペーパーに包むと乾燥を防げます。洋梨は追熟が必要です。常温で数日から1週間ほど置くと完熟し、香りと甘みが増します。完熟後は冷蔵庫に移し、早めに食べるのが美味しく味わうコツです。日本と海外での食文化の違い和梨は日本の夏から秋を代表する果物で、家庭の食卓だけでなく贈答用や梨狩りなどでも親しまれています。洋梨はヨーロッパでは高級フルーツとして位置づけられ、ワインやチーズとの相性の良さからデザートや料理にも幅広く活用されます。日本でも秋から冬にかけてラ・フランスやル・レクチェが流通し、季節感のある果物として人気を集めています。まとめ|和梨と洋梨をシーンで食べ分けよう和梨と洋梨は、同じ梨でもまったく異なる個性を持ちます。和梨は水分が多くシャリっとした歯ごたえで日常に寄り添う果物、洋梨は追熟による芳醇な香りとねっとりとした食感で特別なシーンにふさわしい果物です。栄養価の違いも含め、それぞれの特徴を理解してシーンに合わせて食べ分けることで、梨という果物の奥深さをより楽しむことができます。第四話:梨の歴史