先日友人と国際電話で話をしてからというもの、妙に果物への欲求が湧いた私はスーパーや商店街の果物屋さんで色んな果物を買って楽しんでいる。でも自分の味覚というのは正直なもので、つい手に取ってしまうのは梨ばかり。1週間ほどで賞味期限切れがやって来ると解っていながらも、気付けば冷蔵庫に梨をいくつもストックしている自分がいる。しかし驚くべきことに、私はそれらをダメにしたことがこれまで1度もないのだ。むしろ、1週間経つ前にすべてたいらげ、「あ、梨買いに行かなくちゃ」という具合で、おのずと自分の足がスーパーの果物コーナーへと向いている。切ないことに、梨はバナナやリンゴと違って「旬」の時期というものがある。その時期が過ぎると潮が引いたように果物コーナーから姿を消してしまう。だから尚のこと、梨の出回る7月から秋の終わり頃まで私は足繫く果物コーナーへ通うことになるのである。日本における梨の歴史を紐解くと、その起源は弥生時代にまで遡る。弥生時代後期の遺跡である登呂遺跡から炭と化した梨の種が出土していることから、その時代から梨が食用として重宝されていたことが証明されている。この時代に九州を皮切りに大陸から伝わったといわれる、水稲耕作と同様に大陸から持ち込まれたと考えられている梨は、最古の栽培果実の一つといわれている。そこで梨そのもののルーツを辿ると、その根っこは中国に辿り着く。梨は7000万年以上昔、中国の西部・南西部の山地で生まれたといわれている。時代の変容と共に姿かたちを変え適応することで現在に至ったのだ。中国から伝来した梨が日本人に広く受け入れられてきた過程を示す根拠は、古代文献にも認められる。『万葉集』には梨が登場する歌があり、また『日本書紀』には五穀以外に栽培を推奨するものとして梨が取り上げられ、さらに梨が穀物飢饉の際に人々を助けてくれるとする記述まである。それらは梨がいかに当時の人々に受け入れられていたかを知るに足る貴重な資料だ。古くから日本人にとって身近な果物だった梨は、昭和初期の頃まで救荒作物として人々の食生活を支えていた。本来は長期保存が難しい梨だが、11月頃に収穫される晩成梨はその限りではない。時代の変化に適応しつつ私たちの暮らしに寄り添う梨を、私はきっとおばあちゃんになっても好きなんだろうと、そんなことをふと思うのである。梨の歴史まとめ|古代から現代まで日本人に愛される果物弥生時代に始まる梨の歩み日本における梨の歴史は、弥生時代後期にまで遡ります。静岡県の登呂遺跡からは炭化した梨の種が出土しており、当時すでに食用として利用されていたことが確認されています。水稲耕作と同じように大陸から持ち込まれたと考えられ、梨は日本で最も古い栽培果実のひとつと位置づけられています。梨そのもののルーツをさらに辿ると、中国西部や南西部の山岳地帯に行き着きます。約7000万年前にはすでにその祖先が存在していたとされ、長い年月の中で環境に適応しながら形を変え、今日まで受け継がれてきました。古代文献に見る梨の存在梨が単なる果物ではなく、生活や文化に浸透していたことは古代文献からも読み取れます。『万葉集』には梨を詠んだ歌が収録され、『日本書紀』には五穀以外に栽培を推奨する作物として梨が登場します。また、飢饉の際に人々を救う作物としても記録されており、古代社会において梨が重要な役割を担っていたことがうかがえます。このような記述は、梨がただの嗜好品ではなく、人々の生存に密接に関わっていた証拠といえます。米や麦と並び、生活を支える果物として位置づけられていたのです。中世から近世へ|庶民に広がる果物平安時代から中世にかけても梨の栽培は続き、寺院や貴族の庭園でも育てられていました。その後、江戸時代に入ると農業技術の発展とともに生産が拡大し、庶民の口にも届く果物へと広がっていきます。江戸の市中では季節の味覚として人気を集め、やがて日本各地で栽培が盛んに行われるようになりました。近代における救荒作物としての梨梨は保存が難しい果物として知られていますが、11月頃に収穫される晩成品種は比較的日持ちがよく、昭和初期までは「救荒作物」として重要な位置を占めていました。米や麦の収穫が不作の年でも、梨は人々の命をつなぐ糧となり、地域の食生活を支えてきました。こうした背景からも、梨は単なる嗜好品を超え、生活の中に根付いた存在であったことがわかります。現代に受け継がれる梨文化現代において梨は、夏から秋の風物詩として広く楽しまれています。幸水や豊水、二十世紀といった和梨は全国で栽培され、贈答用や観光資源(梨狩り)としても人気です。一方で、山形県の「ラ・フランス」や新潟県の「ル・レクチェ」などの洋梨も秋から冬の味覚として親しまれるようになりました。長い歴史の中で日本人の生活に溶け込み続けてきた梨は、今も旬を感じさせる果物として存在感を放っています。古代から続くその歩みを知ると、私たちが梨を食べる時間は単なる味覚の楽しみを超え、歴史と文化を味わうひとときでもあるのです。第五話:梨の糖度ランキング