私は久しぶりに中学時代からの友人ふたりとランチを楽しんでいた。地元のフレンチレストランのテラス席はいつものんびりできる、女子会には最適の場だ。「で、仕事は順調?」地元で結婚生活に子育てにと奮闘中の友人が私に水を向けた。「うぅん……順調と言えば、順調。順調じゃない、と言えば順調じゃない」私の反応に友人ふたりは口へとパスタを運ぶ手を止めた。「なにその奥歯にものが詰まったような答えは」もう一人の友人が目を丸くして私を見つめた。「だって本当のことだもの。あなたの海外生活はどうなの?」「私?!私は変わらないわよ。でも……日本食が恋しい毎日を送ってるわね」彼女は国際結婚を機に外国暮らしをしているのだ。私たちはこうして自分たちの近況を冗談めかして話すことで、この時を束の間のストレス発散の時間としている。「お待たせいたしました。デザートをお持ちいたしました」ウエイターがデザートの乗ったプレートを運んできてくれた。それぞれの前に置かれたプレートを見て私たちは小さな悲鳴にも似た歓喜の声をあげた。「季節のデザートを使ったタルトでございます。本日は梨のタルトをご用意致しました」そう言って若い男性のウエイターは軽く会釈をすると持ち場に戻って行った。「梨なんていつぶりかしら……」「甘い……」「あら、本当……甘いわね。幸水じゃないのかしら?」それぞれにひとしきり梨の感動を存分に味わい私たちは改めて和梨の美味しさに舌鼓を打った。友人のひとりが発した「幸水じゃないのかしら?」という言葉にもうひとりの友人はすかさず続けた。「ねぇねぇ、梨っていくつも品種があるじゃない?どれがいちばん甘いのかしら?ふたりはどれが好き?」「私は、幸水も豊水も、二十世紀も好きだわ。梨ならなんでも」「なるほど。豊水かぁ、それもいいわね。私はどちらかと言うと、新高が好きかも。あんたは?」私は頭の中でこれまで食べた梨の品種をずらりと並べていた。脳内を整理するとこんな感じになる。最初に、梨の糖度は15度を上限としていることを抑えておきたい。糖度の高い順に並べ替えると以下のようになる。①15度 南水 梨の中で最も糖度が高く、果肉も柔らかい人気品種。②15〜13度前後 新甘泉 鳥取県のオリジナル品種で酸味が少ない高糖度。③13度前後 あきづき 程よい甘さで果汁の多さと食感が人気。④12.5度 豊水/新興 程よい酸味とジューシーさ。新興は果肉が柔らかく、独特の口当たりで人気。⑤11度前後 にっこり 栃木県のオリジナル品種。大玉で酸味が少なく優しい甘み。⑥12度前後 幸水/新高 幸水は酸味が少なく甘みが強調される。新高は大玉で日持ちする実用性も高い。⑦11.5度 愛宕 主要品種の中で最大級。1個1kgを超えるものもある。⑧11度 二十世紀 青梨の代表品種で、酸味とシャリ感が特徴。「そうねぇ……私は……」そう言いかけた時、バッグの中のスマホが鳴った。「ゴメン、会社からだわ」そう言って席を立つ私に向かって友人たちは目配せをしてイタズラな笑みを向けた。梨の甘みに包まれて、今回の私たちの再会も、また一つかけがえのない時間となった。梨の糖度ランキングとは?梨はさっぱりした果物という印象が強いですが、品種によって甘さは大きく異なります。果物の甘さを示す糖度は、一般的に12度を超えると「甘い」と感じやすいとされます。梨はおおむね11〜15度前後に分布し、品種や産地、栽培条件によって数値は変動します。ここでは代表的な品種をランキング順に整理しました。南水|糖度が非常に高い極甘梨南水は糖度が約14〜15度に達することもあり、梨の中ではトップクラスの甘さを誇ります。果肉は柔らかく果汁が多いため、濃厚な甘みとジューシーさが同時に楽しめます。長野県を中心に生産され、晩生品種として秋の限られた時期に出回ります。新甘泉|鳥取発の高糖度オリジナル品種新甘泉(しんかんせん)は鳥取県のオリジナル品種で、糖度はおおよそ13〜14度前後、条件によっては15度近くに達することもあります。酸味が少なく、上品でまろやかな甘さが特徴。比較的新しい品種ながら贈答用としても注目されています。あきづき|果汁たっぷりで人気急上昇あきづきは糖度が約13度前後で、果汁の豊富さと食感の良さが魅力です。やや硬めの果肉で食べごたえがあり、9月から10月にかけての定番品種として人気が高まっています。豊水|酸味と甘味の絶妙バランス豊水は糖度が約12〜13度前後。甘さと酸味のバランスが良く、果汁が豊富でジューシーです。全国的に栽培されており、流通量も多く家庭の定番梨のひとつです。新興|柔らかく果汁豊富な晩生梨新興は糖度が約12〜13度前後で、果肉が柔らかく果汁が多い品種です。酸味を含むため後味がすっきりとし、貯蔵性が高いことから晩秋まで流通します。にっこり|大玉でやさしい甘み栃木県育成の「にっこり」は糖度が約11〜12度前後で、酸味が少なくやさしい甘さを持つ大玉品種です。1玉が非常に大きいため贈答用としても人気があります。幸水|日本一の栽培面積を誇る人気品種幸水は糖度が約12〜13度前後。酸味が少ないため実際の数値以上に甘さを感じやすい品種です。7月下旬から出回る早生品種で、日本で最も生産量が多い梨として知られています。新高|大玉で香り豊かな定番梨新高は糖度が約12〜13度前後で、大玉かつ香りの良さが特徴です。果汁も豊富で保存性が高く、家庭用から贈答用まで幅広く流通しています。愛宕|迫力ある巨大梨愛宕(あたご)は糖度が約11〜12度前後で、主要品種の中でも最大級の大きさを誇ります。1kgを超える果実も珍しくなく、見た目のインパクトと保存性の高さで人気があります。二十世紀|青梨を代表する爽やかさ二十世紀は糖度が約11度前後で、酸味を含んださっぱりとした味わいが特徴です。シャリっとした食感と爽快な後味で、青梨の代表格として長年親しまれています。まとめ|糖度だけでは測れない梨の魅力梨の甘さは糖度によってある程度比較できますが、美味しさは甘味・酸味・食感のバランスで決まります。南水や新甘泉のように高糖度で濃厚な甘さを持つ梨もあれば、二十世紀のように爽快な酸味を楽しむ梨もあります。また、旬の時期が品種ごとに異なるため、夏の幸水から秋の豊水やあきづき、冬の愛宕まで、季節を通してさまざまな味わいを楽しめます。糖度ランキングを参考にしながら、自分にとって一番美味しい梨を見つけることが、梨の奥深い魅力を味わう近道です。第六話:梨の産地について